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日々の皿

9月29日(金)  晴れ  25/17℃

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鍵をあける音が聞こえてくる。

静かな足で枕元までやってきて、しげこさんがそおっとのぞ

きこんでいる気配がするけれど、とりあえず寝ているふり。

起こさないように気を遣って厨房で、がさり、ごそり、動い

ている。


テラスに出ると見た目より空気は澄んでいた。そのひんやり

とした空気が鼻を何度も通って来たとき、おいしい、と思っ

。空気がおいしいなんて「ほんとう」にそう感じたのは初

めてだった。その空気の味は主に緑色で青や黄色、それから

土の色もふくまれて、たっぷりしていた。きのうの豪雨で洗

われたり、叩かれたり、起こされたり、夜のうちに育ったり

したものたちのように思う。

朝は栗のスウプを作る。

焼き栗を作ってしげこさんと二人、実をかき出す。

これは、大変な作業だった。いつもは髭の人にやってもらっ

ているから、こんなに根気が必要だとは知らなかった。渋

で剥いて、香ばしい焦げ目をつけた方が早いかもしれない、

いやきっと早いだろう。けれど、味はどうだろう。鬼皮ごと

燻された焼き栗の風味は捨てがたいようにも思う。

けれど、しげこさんとおしゃべりをしながら、台所仕事をす

るのは楽しかった。目は栗をみているし、手は栗のしごとを

しているから、空っぽになっている頭に言葉がよくひびいた。

言葉までの距離が遠いから、あまり考えたりできないし、す

こしぼんやりしたおしゃべりになるところがいい。

また何かを作りながら、お話したいなあ。すこし困難で、け

れど困難すぎず、手元に集中できること。

だ、水餃子を作るなんてどうだろう。

テラスに朝食の席を作ってくれているのは、ひでさんだ。

店の入り口の壁にかかっている額のガラス越しに映っている

ひでさんをときどき眺めにいく。席について待っているひで

さんの顔は、気持ちよさそうにほほえんでいるようにも見え

る。

煮詰めたミルクに、栗を入れ過ぎてスウプはどろりとした。

天気がよくて夏のようだったから、うっとうしい味だった。


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ケチャ(猫のこと)は、腰を落として歩いている。毛並みもすこ

し荒れてばあさんになってきた。

けれど、気軽に撫でさせたりなんてさせてくれない。気難しさは

さらに増して横目で睨んだところなんか哲学者みたいな顔になる。

ケチャと呼んでみるけれど「わたしはここにいない者ですので」

とでもいいたげに肩をいからせ気味にすれ違って行く。

薪置き場の高い所にじっとしているときだって、寄るんじゃない

よ、と言っている。アンタが見てるだけだってうっとうしんだか

らね、とも言っている。誰とも目を合わさないで警戒していると

ころなんて、ひでさんにそっくりだ。

ケチャはかっこいいばあさんになったけれど、ひでさんはもう何

年も前から、山の護り人のように樹木のうつし身になってきてき

る。

上で気づきにくいけれど、都市に出てくると人間とはどこ

か違う樹の精が、衣服を身につけているように見える。

山の護り人は周囲にアンテナを張り巡らせてじっとしているこ

がおおいけれど、スコプの枝が腐っているのをすぐに直してく

れるあたり、さすが魔女(しげこさんのこと)のご主人だ。

魔女に相談しながらオリーブの根を下すところを探す。意外と簡

単ではない。都市から来た樹木は都市らしい空気を纏っているか

ら山の上で時を刻んでいる木々とは気配が違う。だからつくり物

のようだし、どこに持って行っても唐突に現れたように見える。

けっきょく、魔女と山の護り人のカフェの壁に近いところ、ほか

の植物と比べて目に入らないあたりに穴を掘って根を下ろした。

場所を決めるとき、しげこさんの様子がいつもに増して静かだっ

た。あとからしったのだけど、そのあたりには順子さんの猫の骨

埋まっているんだそうだ。

オリーブの根が伸びてゆき、猫を通過したら、春にひこばえが出

るかもしれない。




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朝ごはん

・しげこさん特製キッシュ おいしかったー。

・トレヴィス入りサラダ

・栗のスウプ

・パン


夕方

しげこ魔女がつくってくださった、ネギうどん。

おいしかったな。


・ポークカレー

・ポテトサラダ

・蕪ときゅうりのサラダ

出かける朝作って行ったそのまんま。

わたしは天丼のお弁当を買って帰ってくる。

ほんとうは崎陽軒が食べたかったのに、売り切れていた。 








by hibinosara | 2017-10-10 17:47 | Comments(8)
Commented by mary_snowflake at 2017-10-10 19:54
hibinosaraさん、こんばんは〜。
樹木のお写真、私 なんともいえず癒されます。何か訴えかけられてるような。
それから、こちらのテラスの朝食風景、すごく素敵ですね。光と影が…交差していて。この樹木が そうさせているのでしょうか?キッシュも 栗のスウプも抜群に美味しそうです。
それから、ケチャちゃま、風格ありますね。
それから、それからって、hibinosaraさんに語りたくなります^ ^

Commented by na7-ko at 2017-10-10 20:56
mary_snowflakeさんが書かれているように、それで、それで、といくらでもお話をしたくなるけれど、がまんしてひとつだけ。
都会の木の香りを脱ぎ捨てて、土地に根付いて良いオリーブの木になる気がします。
Commented by shigeko at 2017-10-11 08:50 x
ケチャは半分野生化してるのでよけい気難しいのかも。
私達のところにいながら、外にもいる存在。
時間の外にある世界と現世を自在に行き来しているよう。
おばあさんになったけどまだ狩りもできるので大丈夫。

食卓になだれ落ちたような光。
りかちゃんは光の撮り方が素晴らしい!
いつもはみそ汁に焼き魚、漬け物にごはんといった朝食なんだけど「日々の皿」を意識して、ね。
Commented by hibinosara at 2017-10-11 08:58
サファイヤさん
おはようございます。
このお山の木々は、とっても雰囲気があるんです。
語りかけられているような気配があります。人のことをよく知っているような。
この樹は駐車場の空を覆うように生えています。食卓の木漏れ日はまたちがう木と太陽が作っています!!キッシュ、おいしかったですよー。
ふふふふ。
ケチャは、かっこいいおばあさんになっていました。
お話をしてみたいなあ。山について話を訊いてみたいみたいです。もしくは、狩りについて、とか。
Commented by hibinosara at 2017-10-11 09:01
ナナコさん
樹がね、大きくなって理想の住処になっていました。
そう願います。風に耐えながら、雨を受けながら、枝葉を広げていってくれると嬉しいなあ。
野生のオリーブに戻って欲しいです。
Commented by hibinosara at 2017-10-11 09:08
しげこさま
ケチャかっこよくなった。以前は気の強いおじょうちゃまみたいだったけれど、今はなんだろう、ひでさんもそうだけれど、山の護り神のようでもあるなあ。すごく集中力の強い猫だよね。
ケチャとお話をしてみたい。テレパシーで!
ときどきギラリと、睨まれながらね。

おいしかったー。やっぱりしげこさんのキッシュはやさしくって、ふんわりしていて、おいしいなあ。
えへへへ。ありがとうございます!!!
そっか、日々の皿って、こういうイメージなんだ。ちょっと照れてまーす。
Commented by shigeko at 2017-10-11 13:57 x
オリーブの木は新芽がどんどん出てきました。
ざっと数えてみたら50あまり!
嵐の日に大きな木を抱えてきた甲斐があったわね。

Commented by hibinosara at 2017-10-11 15:35
しげこさま
わー、うれしー、うれしー!!
ありがとうございます。
今度行ったときの楽しみができたなあ!