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日々の皿

10月19日(木)  くもり  12/10℃  寄り添う人

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秋の朝はこんなに暗かったかな。

プリンになる卵がうすぼんやり浮かんでいる。

ことし栗は豊作だけど、不作なんだそうだ。数だけはいっぱ

いとれるけれど天気が悪かったから味はぼやけておいしくな

いと八百屋さんが言っていた。たしかにこの秋はじめて買っ

た栗はつやつやのLLLでいかにもおいしそうだったのに、味

は薄かった。それでも栗だから、喜ばないといけないような

気になっていたけれど。


エレベーターに乗ると、とつぜん「エレベーターっていいで

すねえ」と力強い声で話しかけられてびっくりした。

その真意をわからないまま、とっさに「はい。ほんとうに。

階段は上ったり下りたりが大変なので助かりますね」という

ようなことを自分の感覚に引きつけてこたえると、フロント

の階に着いても白髪頭の男の人はエレベーターの「開」のボ

タンを親指で押しつづけて何か言いたそうにして、けれどそ

のまま降りて行った。

扉が閉まって、引っ越してきた人なんだろうか、とぼんやり

考えていると背中に声がかかって、けれどよく聞き取れなか

ったから振り向くと、髪を茶色に染めたくたびれた顔をした

女の人が「さっきの人乗りたかったんじゃないですかね?」

と訊かれてなんのことかと戸惑っていると、髭の人が「車椅

子の人のことじゃない?」というので合点した。

フロント階でしばらく扉が開いていたときエレベーターのロ

ビーにいたその人のことなら少し知っている。

「あの人なら上に行くはずです。それに向こうの貨物用のエ

レベーターに乗るはずなので」と言うと、彼女はほっとした

顔になった。

1階にエレベーターが止まると、疲れた人は裸足にサンダル

履きの足元で茶色の髪を右に左に跳ねさせながら走って飛び

出して行った。

あんなふうにエレベーターの中で話すことは珍しいことだか

ら、ぽわんとしたあたたかいような胸で外に出ると、むこう

からときどき見かけるおじいさんが車椅子に乗って帰ってく

るところだった。

いつもはおしゃれをしてつばの広いシャッポーをかぶって、

すこし腰を曲げてどこに行くにも一人だったけれど、今日は

毛糸の帽子をかぶって、安心しきったやわらかい表情で、車

椅子を押している人に耳をやるように、やや後ろに頭をたお

していた。

路地を通って地下鉄に向かうあいだも、体の力をすっかり抜

いてくつろいだおじいさんの顔が浮かんでいた。

きっとやわらかな声が頭の上から降り注いでいたのだと思う。

幼いころお母さんの膝に抱かれてあやされていた安らぎに似

た、気持ち良さがあったのではなかったかな。

おじいさんと、マンションの下やスーパーの前のベンチで会

うと挨拶はしていたけれど私の顔は覚えてないようで、そ

度に「はて、はて、だれだったかな」と思い出そうとする顔

やさしくて、いたずらっこのようだった。そして話しかけ

たそうに口元はほどけてもいた。

けれどその無垢な表情の下にさびしそうに遠くを見ているよ

うな顔や、さびしくて怒り出してしまいそうな感情がうっす

らと沈んですけて見えてもいた。

だから車椅子を押している人と寄り添うようようにして、安

心しきっているおじいさんの顔がいつまでも離れず、事情は

わからないけれど、お話をできる人ができてほんとうによか

ったなあ、と思った


なんというか、凝縮された不思議な数分間(たぶん、2分く

らい)だったな。魔法みたいに。

みんな傷ついていて、でもあたたくて。あの時間はいったい、

なんだったんだろう。



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プリンはちょっとスが立った。

行平鍋に木製の蒸篭をのせると11分だけど、金属製の鍋に

蒸し網を入れて蒸すと、9分でいいみたいだ。

たくさん作ったのに、今日は三人しかいらっしゃらなかった

あ、そうそう。試しに今日はプリンもカラメルもグラニュー

糖で作ったけれど、あっさりしすぎることがわかった。



朝は

・肉まんと、白菜の長ネギと豆腐の中華スープ


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夜は

・里芋と鶏団子と焼き豆腐の鍋

・蕪のサラダ

・わかめ酢とらっきょう

・さいごにあたたかいツクネ蕎麦


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by hibinosara | 2017-10-28 16:26 | Comments(4)
Commented by maru at 2017-10-28 21:35 x
こんばんは。二回目のコメントです。またしても抑えきれず。
セリフの少ない良い映画の一場面みたいですね。
魔法のような時間を、こちら側まで届けてくださりありがとうございます。
切ないような温かいような不思議な気持ちは、立ち上がった湯気のように儚くてどこかに置いてけぼりにしてしまいます。
みんなこんなに優しいのに。
皆様お幸せでありますように。
Commented by hibinosara at 2017-10-29 08:24
maruさま おはようございます。
こちらこそ、いつもありがとうございます。

誰かが何かを伝えたがっているような、まるでそこに意味があるかのような、
凝縮された時間でした。
maruさまがおっしゃるように、切なくてあたたかな不思議な気持ちに、今思い
出してもきゅんとなります。
エレベーターに感じ入っていた紳士も、つかれているのに優しかったひとも、
安心しきっていたおじいさんも、宝物のように思います。
Commented by yamataro28 at 2017-10-31 15:13
りかさん、こんにちは。
今年は近くの山の栗も大豊作でした!…が、カタチのいいのをいくつかいただいて帰ったら数日でしぼんでしまいました。
雨の日が多かったから水分が多かったのかなぁ。
でも、山の熊たちが今年の栗はぼんやりした味だな…などと思いながらもむしゃむしゃ腹いっぱい食べているところを想像すると、とりあえずはよかったなぁと少し嬉しくなりました。


Commented by hibinosara at 2017-10-31 17:22
わこちゃん こんにちは。
しぼんでしまったんですね!!そうかあ。それは、かなしい栗でしたね。
柿もおいしくないと、ともだちの猫さん(若干人間でもありますけれど)が言っていました。
水分がおおかったんだろうなあ。ということはわたしたちもぼよんぼよんしているのかなあ・・。
ふふふふ。熊さんはおかしいなあ、おかしいなあ、と言いながらついついいつもより多く食べて
、いつもに増して、お腹が出ているかもしれませんね!!