人気ブログランキング | 話題のタグを見る

日々の皿

11月6日(月)  晴れ   20/8℃  一の酉


11月6日(月)  晴れ   20/8℃  一の酉_c0367403_13325622.jpg
母から20キロタマネギた届く。





一の酉。

平日のまだ明るい時間の浅草。

毎年混雑を覚悟する酉の市だけれど、今年の出足はうっすら

始まったというところ。

鷲神社のいつもはどこまでも続く長い列も、鳥居からすこし

はみ出ているくらいだ。

わたしたちは、隣の長國寺に向かう。

古い「かっこめ」をお返しして、参道に入ると線香と露店の

食べ物のまじった臭い。

金色の「かっこめ」が道の左右を埋め尽くしている。

そういえば去年は雨だった。湿気ったぬるい空気が気持ち悪

くて酉の市の雰囲気じゃなかった。それに比べれば今日はま

ずまずというところ。ピリッと冷たい空気が乾燥しているの

が酉の市の感じなのだけれど。

半纏姿の露天商たちが「かっこめ」を買った客を半円に囲み

三本締めの声があがった。

巨漢のお坊さまの六拍子の野太い声のお経に耳をやるうちに

うっすらと明るさが取り戻されてくるのを感じた。

今朝「今日は一の酉だから出かけるけれど、どうする?」と

髭の人が言った時すくなからず驚いた。

きのうまで気持ちを保ってきたのに起きたら突然暗い穴に落

っこちたようになっていてなんとかしようともがいていたら

一の酉がやってきていただなんて。

酉の市のせいでないのはわかっているけれど気分の落ち込む

季節はいつの間にか巡って私に影のように寄り添っていたの

だな。

うす暗くなった浅草の裏通りを散策しながら古い洋食屋に向

かった。

わたしはナビを手に、髭の人は勘を頼りに彼のやりかたで道

を進んでいく。青色の小さな住所の看板を確かめ、空気の臭

いから何かを感じ取る動物のように時々顔を上げる。人にも

尋ねる。丁寧に教えてくれる人もいれば「ずーっとあっち」

と指差してイタリア人みたいにざっくり示す人もいる。

日はさらに暮れて、あちこちに提灯のあたたかい明かりがと

もる時間になった。

ひさしぶりに耳を澄まして街を歩いた。この街には人の気配

があるし、それから街の声というものもある。

古い小さな洋食屋についたのはちょうど5時で、私たちが一

番のりだったけれどカウンターはすぐに満席になった。

マダムは浅草の人らしい情の深さと冷たさにも似た強さのあ

る化粧の濃い美人で、もしかすると花柳界にいた人なのかも

しれない。

一人一人の前に立って注文をとってゆく。

最初は私。

「タンシチューとライスをください」

次は髭の人。

「ビーフシチュとライスをください」

次は隣の二人組。

「ビーフシチューと僕はミックスグリル、それからクリーム

コロッケを一つ。あとは、にんにくライスを二つ」

お次のお一人は

「ビーフシチューとにんにくライス」

次の人はなぜかとても恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、

「ビーフシチューとサラダとぉ、そ、それからトーストをくだ

さい」と言った。

店の中は妙にしんとして、だから人の声がよく沁みた。

扉を開ける人がいるわけでもないのにドアベルが小さな音を

ずっとたてていた。

ミックスグリルが静けさのなかを鉄板をバチバチいわせて真

っ直ぐ進んできたとき、私は嫉妬した。

次はあれにする。にんにくライス付きで。




朝は

バタートースト

人参のサラダ

かぼちゃのカレースウプ

ブルーベリーソースヨーグルト

11月6日(月)  晴れ   20/8℃  一の酉_c0367403_16473544.jpg

バスで橋を渡るとき、東の空から大きな黄色の月がのぼって

くるところだった。大きな交差点に差し掛かった時にもにゅ

うっと一瞬月が見えた。

髭の人の腕をばんばん叩いておしえたけれど月はあっという

間にビルで隠れてしまった。

バスから降りて、私は月を探しに戻った。

大きな通りを東に向かうと突然、静かに燃えている月が何か

を伝えたそうに重たげに浮かんでいた。

月に背を向けて坂を下りてくる人に、「月ですよ。月。あん

な月はなかなか見られませんよ。」と叫んでみたかった。

家にもどってしばらくすると、東の空のうえにさっきの少し

欠けた月がさっきより小さくなってぽっかり浮かんでいた。


夜のおやつは

なつかしい徳太郎の、大福。

やっぱりここのは、甘くなくて、お餅には適度な塩がきいて

いておいしいなあ。




by hibinosara | 2017-11-19 08:04 | Comments(4)
Commented by na7-ko at 2017-11-19 09:38
大きな黄金の月を教えるために、髭の人の腕をバンバン叩くりかさん、バスを降りて月を探しに戻るりかさん。
わくわくと嬉しそうな姿が目に浮かびます。
素敵だなあ。
Commented by hibinosara at 2017-11-19 10:15
ナナコさん
いつものお月さまはとおい存在だけれど、あの夜の月は、とても近いなにかでした。
あんまり分析するとつまんなくなるのでやめます(笑)。
こんどは「月、月ですよ!!」と街中で叫んでみたいな。

Commented by na7-ko at 2017-11-20 07:42
りかさん、おはようございます。
これ、心の奥底にインプットされて、酔っぱらって歩いてるときに
素敵なお月様がのぼっていたら、町中でやってしまいそうです。
みなさーん、月、月ですよ!!って。
Commented by hibinosara at 2017-11-20 12:23
ナナコさん
ふふふふ。やってみてくださーい。
私は虹がかかっている時に、隣近所に聞こえるように叫びました。根性なしだけれど。
橋の上で叫んでみたい!恥ずかしさを脱ぎ捨てて!!