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日々の皿

12月26日(木)  晴れ  13/4℃

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診察台の上で、時計回りに時計回りに何度でも転がる。

「そうそうそうそう」「その方向覚えておいてください」と

スピーカーから先生の声が聞こえてくる。両脇の棒に捕まる

と、ウィーンという音とともに診察台が動き頭が下がり、次

は足が下になる。これだけ転がれば診察着の足元はきっと大

いにはだけているはずだけど直す方が恥ずかしいからそのま

まにしておく。まっすぐに立ってバリウムを飲むと「きれい

に流れてますねえ」「ああ・・いいデスネ」と言うガラスを

隔てた先生の視線の先にはきっと私の食道やら胃なんかが写

っているんだろう。

こんどは反時計回りに何度でも転がる。

「はーい。できるかぎり全部飲んで」ごくごく飲むバリウム

は嘘っぽい柑橘系の味がついているけどそんなにまずくない。

先にカメラが付いてるロボットの手で胃を押されて「はい、

もうちょっと右」「いきすぎ」「はい、そこ」と内臓写真家

になっている先生は養老孟司似だ。

さっき診療所に入ると受け付けはがらんとして、この間は閉

まっていた診察室と待合所を隔てる扉はすっかり開いて奥ま

で見渡せた。向こうに誰かいる気配はうっすらあるけれど声

をかけるのも憚られてソファに座っていると、さらさらの白

髪とよい形の頭蓋骨を持った教授みたいな風貌の男の人がや

ってきて「おはようございます」と挨拶して診療室に入って

行った。あの人が先生なんだろうな、と思った。HPの文章

の印象にも近い。

バリウム用の下剤を飲み、胸の写真を撮り、体重を量り、身

長と胸囲と胴囲を測り、心電図を取り、尿を採る(大便は家

で二日分採ってきた)。

聴診器をあてられたのなんて何年振りだろう。茶系の衣服に

身をつつんで白衣は着ない主義らしい先生がほとんどのこと

をする。血圧を右の腕と左の腕を三度ずつ測定し、頸回りや

手首を観察して緻密だった。血を採る時私の腕をみて先生は

むむっという顔をした。「これは」とうっすらと笑って「女

性らしい血管をしているというかね。はい手を握って」と言

うとパンパンっと腕を叩きぷすりと刺した注射の針は黒っぽ

い血を注射器に吸い上げていく。

本棚の何冊か並ぶノルウェイの医療の本の背表紙をぼんやり

ながめながら、ここに来てよかったな、と思う。

着替えをしていると、先生のはっきりした話し声が聞こえて

電話で患者さんの相談にのっているらしかった。

カルテを持って紹介された眼科にも向かう。

こちらは肩がすとんと落ちたなで肩の線の細い先生で風貌は

四谷シモン似だ。目に光をあてて眼底を覗き込んでいる先生

の腰は落ち、ぐいぐい回り迫ってものすごく診ているのがわ

かる。「おやっ」と飛びのいて机のカルテを読んで「ときど

き血圧が高い目をしてますねえ」と反対の目を見る時もまた

ぐいぐいと迫って、さっきからずっとぐりぐり押されている

唇につけた色のうすい口紅は先生の手のひらの横についてべ

とべとしているはずだし私の口のまわりにもうっすらと口紅

が広がっているはず。こんなふうに懸命に眼底を見られたこ

とってあるだろうか。

自分の眼底写真というのを初めて見た。「はあっ」と食いつ

いて見た。

黒目のない白ばかりの目に赤い動脈と静脈が無数に走ってい

るその球体は生々しい月のようだった。

うす暗い壁によりかかってにこやかな四谷シモン先生が「眼

科の診断っていうのはね19世紀から変わってないんですよ」

と話し始めた。聴きながらまた、なにかあったらここに来よ

うと思った。

カルテを最初の診療所に渡しに行ったとき「ときどき血圧の

高い目をしているって、伝えてくださいと言われました」と

言うと受付の人はとびきりいい笑顔で笑った。「眼科の先生

は良い先生でした」と言ってすぐに「好きな先生でした」と

言い直すと、また清潔な笑顔で笑った。

診療所を出ると髭の人から「メジロさんきて、みかん食べて

る」とメイル。飛び上がって喜んで返信すると「みかん新し

くした♡」「またきた」と目尻を下げているよう。

嬉しいなあ!!


日本橋を渡る時、乞食がいた。ぷーたろうさんではなく、正

真正銘の乞食だ。冷え冷えとした硬い橋の上にきっちりと正

座をした膝元には青い紙のカップが置かれている。一度は通

り過ぎたけれど、財布を開き小銭入れの最初100円玉に触

り、けれど500円玉に変えてカップに入れに行った。中に

は何も入ってなかった。硬貨はことりと着地した。

そのあと三越で製菓材料の買い物をしている時も気になって、

何か温かいものでも買ってみようかとも思ったけれどもう居

ないような気がしてやめた。そしてやっぱり居なかった。

東銀座で蕎麦をすすりながら「なにか胃袋に入れたかな」と

髭の人に聞くと「一杯のんだかもしれないしね」と言うので

うれしくなった。


それにしても八百屋の野菜の高いのにびっくりする。

大根1000円、芽キャベツ1000円。

380円の赤蕪だけ買う。


和歌山のNさんから柚子が届く。




朝は

ブルーベリーヨーグルトとりんご


昼は

東銀座の文化人で

髭の人 大山鶏のつけじるせいろ

私   春菊と鶏肉のあたたかい蕎麦



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夜は

・白菜と鶏肉のスウプ

・石焼ビビンパ

・若布酢

・キムチ

・蕪の浅漬け


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by hibinosara | 2018-01-09 09:06 | Comments(0)