日々の皿

2月6日(火)  晴れ  8/-2℃

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長編小説の分厚いのを一冊、エッセイを一冊、それから料理

の本と200Pのツバメノートをバックに入れたらずしっときた。

でもこれで安心。待合室で何時間待たされても平気だ。

今日はずっと気になっていたところを診てもらいにレントゲ

ンや資料が残っている大学病院に行く。

退院して四年経つから行き方をすっかり忘れていたけれど、

髭の人はすぐに駅名を口にした。

地下鉄を上がると空は真っ青にすこんと抜けて、風は震える

ほど冷たかった。

大学病院行きのバスは大きな通りを行き、右折してからは住

宅街の細い道を分け入るように進んだ。

終点に近づくと急に、消毒用アルコールの刺激的な匂いが車

内に充満した。

でもあれは現実の匂いではなく、不安が呼び覚ました幻臭の

ような気もしている。

待合所の長いベンチに腰掛けて朝一番の慌ただしい往来を

るともなしに見ていると、日常のなんていうことのないシー

ンが光と影が逆転した赤紫色のネガフィルムに、私たちは輪

郭の甘い光となって、右の胸の中に映写されはじめた。

退院した日、タクシーでその頃暮らしていた街の交差点にさ

しかかったとき眩しくて、露出過多の白っぽい写真のように

風景が見えて、こんなにも幸せだったんだな、と思ったこと

を思い出しもして。

研修医?と思うくらい若い先生だった。

顔が小さい。腰かけていても手足の長いのがわかるキリンの

ように穏やかな先生だ。

万年筆でびっしり書いた問診票に時々目をやりながら、先生

は古いレントゲン写真を見ている。

まず検査。

黒い羽根がついた注射針をぷすりと刺して血を採る。細いホ

ースに血液がするすると流れてゆきブルー、グレー、ピンク

系三色のゴム蓋の試験管五本に入る。それから尿検査とレン

トゲン。

診察室に戻ると点滴が待っていた。シャツをめくって腕を出

す。看護師さんは人先指の先を鋭敏にして注意深く血管を探

る。腕を持って縦にしたり軽くたたいたりもする。

困っているようなので「反対の手にしましょうか?」と言っ

てシャツを大きくめくる。

血管にも個性があって私の血管は「蛇行」しているんだそう

だ。

細くて蛇行している血管か。

小川が浮かぶ。川面にはアメーバがスイースイと走っている。

蛙の連続したたまごの半透明なんかが見えるし、おたまじゃ

くしもぺらぺら泳ぎ、長い水藻が流れにたゆたい、透明な小

さな魚がきらりきらり群れて泳いでいる。ピアノの先生の教

室のそばにあった川だ。

「この点滴の針の長さ分のまっすぐの血管が欲しいんですよ

」と眼鏡をかけた看護師さんはつぶやいて、血管の流れにさ

らに目を近づけ点滴の、先を斜めに切った太鋭い注射針

持って探した

点滴を受けながらMTの順番を待っていた。

説明をうけては署名をして、なんだか死んじゃうような気持

ちになっていた。

造影剤を入れるとショック死することもあるんだそうだ。

それを入れるとお尻の一箇所があたたかくなった。子どもの

ころを思い出すような気持ちのよさだ。

これもまた熱さが現れる場所に個性があるそうで私は下半身

局部型だった。

「今週もう一度来られますか?」「悪いものではなさそうで

すね」とキリン先生は言った。

ぼーっとしていたから、帰りはバスの終点駅の池袋まで出て

しまった。

何か食べようと歩いてみたけれど、なにしろぼーっとしてい

るものだから、ぽんと押し出されるように元の場所に戻って

しまう。

デパートの、昼には遅すぎ夕食には早すぎる時間帯のがらん

とした中華屋に入った。

赤と黄の、菊花模様のけばけばしい花瓶に紫陽花の造花が生

けられたデコラティブな風景を見ながらまたぼーっとした。

池袋の光がさんさんと入る店で、レバ炒めを食べる。



髭の人の昼はお弁当。

今年はこういうなんでもない「わさっ」としたお弁当も作り

たい。ごぼうご飯に、メカジキの佃煮、卵焼き、せいさい菜、

塩昆布、梅干し。

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夜は

・鴨うどん


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・長芋の梅あえと若布酢


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by hibinosara | 2018-02-16 09:26 | Comments(0)