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日々の皿

4月11日(水)  くもりのち雨  12/6℃

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母は毎日のように台所の小豆の袋をとんとんとやさしく指先で叩

いて「小豆を煮てほしいの」「おかあさんが煮るとあんまりおい

しくないの」とちいさな声で言った。

「カレーもね」と背中を見せていう。

どちらともまだ作っていない。

明日、東京に帰る。


朝は

・にゅうめん

 お揚げと三つ葉で


今日もまた「見てごらん」と言って、いくつも箱を持ってきて

薄紙をほどいては見せた。

「持って帰りなさい」といいながら「素敵でしょう」とすこし

惜しそうにも言う。

ガラス戸棚のアンティークの銀製のティーポットのセットを見

ていると「欲しいの?」と微笑んでいる。でも、うちには合わ

いし手入れも大変だ。

漆器をもらう。それから、使っていないドイツ製の堅牢なデザ

インのフライパンとフランス製の鍋も。

敷き布はねだった。古布や藍の。

布の棚をあけると、木綿の懐かしい匂いがした。

一度も洗ってない濃い藍の色、すこし落としたの、何度も洗っ

て布がやわらかくなり色も淡くなったの。

藍の色に目がのみこまれていく。まるで海でも見ているみたい

に。

テーブルクロスになりそうな布も何枚かもらった。

けっきょく裁縫をおしえてもらう、というところまでは辿り着

けなかったけれど、クロスにする両端にミシンをかけた。

物心ついたときには家にあったSINGERの古いミシンで。

下糸がつってうまくミシンをかけられたことはなかったけれど、

ちゃん縫えたのは母先生のおかげ。

「上手、上手」と褒めてくれる。

持ち帰る荷物はそうしていつも山になってゆく。

おいしそうなお菓子をすこしずつ溜めておいてくれた、大きな

紙袋なんていうのもあって。


昼は

・小松菜とトマトのパスタ

パスタは細いブカティーニにして。

母は珍しいもの、新しいものが好き。

長いマカロニだよ、と言うと喜んだ。


もう一冊デザインの本を買ってきて、好きな服を指差す。

教われなかったけれど服は作ってくれるそう

縫い始めたスカートの、黒いゴムのベルト、が必要で、一足先

に出た母と「カナリア」の前で待ち合わせをすることにした。

大通り公園の空がいま暮れようとしているところで、広い空に

青黒い雲が広がっていた。

傘を手に、正面を向いて私を探している母は心細そうな子ども

たいだった。

疲れているのだろうな、シルエットはすっかりおばあさんだ。

「おかあさん」と呼ぶと、ゆっくり横をむいて安心したように

微笑んだ夜会巻きにした白い髪がきれいだ。

手芸の店「カナリア」は、未知の世界。

ボタンくらいはわかるけれど、小物のほとんどは認識ができな

い。だからすべての境界線はあいまいで、わたしにはぼんやり

としか見えない世界を母は慣れた足取りで必要なものを手に入

れてゆく。


ビオの店で明日の朝のパンを買う。

デパートのはしごをしてお土産も求める。おなじみ六花亭で。

今日は外食にしたかったけれど、母は夕方の市の4パック千円

の鮮魚の前に立っている。私が作ったご飯が食べたいんだそう。

選ぶのは私。ヤリイカ、ヒラメ、イサキ。北海道ではアブラコ

呼ばれていたはずの、アイナメ。東京で見るものよりも肉質

が硬そう。

札幌駅そばで、買い忘れていたカレー粉を求めて、米を研ぎ

めたのはもう9時半も過ぎたころだった。

流してしまいそうになった米粒を集めて雀にやろうと指先で

めたけれど、ここは東京ではなく札幌だった。

そういえば、雀の声をいちども聞いていない。

姿さえみていない。


夜は

・お刺身

 ヤリイカ、ヒラメ、イサキ

・昆布と生姜の酢の物

・げそ焼き

・お味噌汁

 鰹節と長ネギを具にして


この夜、母は涙を流して笑った。

母はほんとうによく笑う。


by hibinosara | 2018-05-08 18:30 | Comments(2)
Commented by mary_snowflake at 2018-05-08 22:37
hibinosaraさん、こんばんは。
お母様とhibinosaraさんが お名残惜しい様子が伝わってきます。何日一緒に居ても、日が足りないような…、そんな感覚。拝読しているだけで胸が熱くなります。
私も 母に色々作ってあげたかったな〜。
私は 甘えてばかりで何にもしてあげられなかったのです。
生前の母からは、(突然だったこともあり、) 何にももらえずにいて、昨年妹と遺品を分けてもらってきました。
母も器が好きだったので、時々使っています。
お母様、よく笑われる明るい方なのですね。
ミシンの写真、すごく素敵です。
Commented by hibinosara at 2018-05-09 06:30
サファイヤさん、おはようございます。
うちの鍋はほとんど母からもらったものなのですが、寂しいと鍋を買ってしまう、と聞いて、ぐっときました。うちにある鍋は寂しさの結晶だったのだな、と。
そして、鍋はまだまだたくさんあるのです(笑)。
サファイヤさん、甘えるのも親孝行だとおもいます。
親は甘えてくる子どもはかわいいのではないかな、と想像しています。
私もそうしてみよう。
器、よかったですね。
胸がいっぱいになります。

はい、なにがそんなにおかしいんだろうなあ、と思うくらい笑います。
でも、明るさって、宝だなあ、とも思います。助かります。

ありがとうございます!!
古いミシン、直しながら使っているようです!