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日々の皿

4月12日(木)  晴れ  14/6℃

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「雪?」

いつも窓の前で足をとめた。

お向かいのビルの屋根の白いペンキの色が、カーテン越しに

降り積もった雪に見えるだけだと知っていても「はっ」とし

てしまう。

「ねえおかあさん、いつも雪が降っているようにみえるね」

と景色を指差すと母も「そうなの」と言った。

母のマンションはいつの間にかすっかりビルに囲まれた。

西の空には、建設中の高層マンションがそびえ立ちはじめて

いる。

どうしてあの緑の地帯を潰したのか、理解に苦しむけれど。


二、三日前から台所の洗い場の隅に、トマトの水煮の缶詰が

のっていた。

片付けると、また戻っていた。そんなことを何度か繰り返し

て、冷蔵庫の解凍されたタッパーと同じ「つくってみて」の

メッセージだと気がつく。

ウィリアムモリス調の布表紙の古いアルバムをピアノの上に

みつけときもそう。メッセージはたぶん「先祖のことを話し

たい」だと思う。

プリントがきれいで目を見張った。きがあり濡れるよう

に揺らいで、ありありとしていた。

豊平館で撮影された写真には知らない人ばかりが並んでいる

けれど、今この世に生きている人に面影をつないで、不思議。

わたしにも遺伝子は受け継がれて。

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今日もまたしぜんと台所に立って、何日か分の食事を作った。

いただいた焼き芋は一本はくるみと合わせてジャムに。もう

一本はごまを混ぜておにぎりにする。

母に一つ差し出すと「栗みたいねえ」と喜ぶ。

トマトソースをつくり、黒胡椒入りのペコリーノロマーノを

すりおろして、ペンネのパスタ。

「おいしわねえ。おかあさんが作るのと何がちがうのかしら」

と言う。

小豆を煮ながら、グリンピースのおにぎりと、サザエのおにぎ

りを作る。サザエは独特な匂いがあるから、牛蒡と生姜で臭み

を消して切り昆布も加える。

順香(中華屋)のことが頭をよぎる。もう一度行きたかった

心残りは水餃子。でも、また今度。

小豆を煮てさしだすと「あらあ」とぱっと明るい顔をした。

我ながら、これは、おいしかった。途中までこしあんを作る

やり方をして間違えたのがよかった。砂糖は控えめさらりと

して、銀座の鹿の子のさっぱりした善哉みたいになった。

けんちん汁をたっぷり作り、三時のおやつはアイナメのカレ

ー。

一人暮らしなら、お味噌汁みたいに作れる簡単なカレーがい

い。

玉ねぎを薄切りにして透明になるまで炒めたら、カレー粉を

ふり入れ炒め、香りを立たせる。

4分の1に切ったトマト1個分(湯むきはせず皮付きのまま

入れて、皮はあとで箸で取り除けばいい)を加えて、味付け

は塩。

ローリエ1枚をひらりと入れ、あたためたスープストック

酒をアイナメがひたひたになる量を注ぎ、味をなじませる

めすこし煮る。湯びきをしたアイナメと生姜のスライスを加

えて2分ほど火を入れ、仕上げに醤油をほんの少し。

さらりとしたカレーのできあがり。

どうしてか北海道でアイナメはあまり人気がない。母もアブ

ラコと呼んで顔をしかめる魚。同じアイナメ科のホッケは人

気者なのになあ。

アイナメは汁物にすると、ほんとうにおいしい。できれば身

厚のふわっとしたのがいい。

魚のカレーははじめての母は最初おそるおそるというふうに

スプーンを進めたけれど「あら、おいしいわねえ」と言って、

それはお世辞でもなさそうだから、ほっとした。

煮魚と同じに、牛蒡をあわせてもきっとおいしいと思う。

母はずらりと並べた小さなおにぎりを数えて「12日分はあ

るわね」と言った。


大きな箱にどんどん荷物をつめる。ぎゅうぎゅうに詰める。

漆器と刃渡の長い牛刀は手荷物にする。

眼鏡屋に行って、すこし時間が余ったから寿司屋でビール。

すこしつまんで。

母はホタテをおいしそうに食べた。


千歳空港まで送って行くという母とは、札幌駅のホームで

別れた。手を大きく広げて抱きしめると、うれしそうな顔

をした。

またね、おかあさん。

別れは惜しみたくない。



空港に着くと髭のひとは足を組んで椅子に座っていた。

あんまり恥ずかしくて、待合所のベンチの間をジグザグに

走って近づくと「ばーか。みんなみてるぞ」と苦笑した。


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またね、おかあさん。



by hibinosara | 2018-05-09 10:08 | Comments(6)
Commented by syun368 at 2018-05-09 10:39
ricaさん 可愛い!
お母さまとのこともお髭の人とのことも。
そして お母さまの沈黙の作って攻撃も可愛いなぁ(笑)
Commented by hibinosara at 2018-05-09 11:51
syunさん
ふふふふ。ありがとうございまーす。

あれは母の裏技ですね(笑)

Commented by mary_snowflake at 2018-05-09 20:47
お母様、とっても素敵!チャーミングですね♡
言葉ではないお母様のメッセージが なんとも愛らしくて 、お台所の様子やお鍋の中を想像しながら拝読しました。
hibinosaraさんと、札幌駅のお母様、空港の髭のひとさまに、ほろっと泣き笑いしました。
Commented by hibinosara at 2018-05-10 06:53
サファイヤさん
ありがとうございます☺️母に伝えます。褒められるのが大好きなんです。
白い髪が好きです。夜会巻きにするときれいで。
ふふふふ。
帰ってきてから、見落としたメッセージあったかなあと思いました。

やっぱり別れる時はつらかったです。胸が痛かったです。
でも、帰ってきたら、さっそく毒舌がまっていましたー😎✳︎
Commented by na7-ko at 2018-05-10 07:36 x
お母さま、あいかわらずお綺麗ですね。
hibinosaraさんによく似ているなあ、と思います。
別れるときの気持ち、想像できるから、わたしも胸がキュンとしました。
髭の人、空港まで御迎えに来て下さったんですね。
やさしいなあ。素敵だなあ。

Commented by hibinosara at 2018-05-10 08:13
ナナコさん
iphoneを珍しがって動画を撮ってみせると、じーっと見て「おばあさんになったのねえ」と母はいいました。
ふふふ。眉と目は母似、ほかは父に似ています。
性格は母は姫、わたしは荒々しい😎なので嫌われます。男の子産んだみたいって。

今回はいちばん辛かったかも。かわいそうで、仕方ありませんでした。
髭の人、あとあと面倒だから来てくれるのかもしれませんよ😎
でも待ってくれていると思うと嬉しいものですね。