さよなら築地 わたしを鍛えてくれた市場
10月6日(土) 晴れ 29/18℃
ああ、そういえば最初の頃はこのくらいの時間に行ってた
んだった。早朝はフロントの前を通らないと外に出られな
いようになっているから、警備員さんにペコリと挨拶して
階段をおり、玄関先の金木犀の花が咲いているのを確かめ
た(朝は香らないんだろうか)。市場に向かう道は人通り
まばら、渡る川もうす暗くて懐かしい。
大水さんにゆく。
にこにこされて「いいものが入りました。やっぱり最後は
胸を張ってお渡ししたいですからね」「そこに、あるのが
より落ちですよ」とおっしゃるので見ると、落とされた穴
子も黄色い背をして旨そうに籠の中に並んでいた。今日は
ご自慢の穴子なんだな。
さて、急いで帰らないと。
袋をあけてみると、ほんとう、きめ細やかな肉がしっとり
と指に吸い付いて、黄色い背のいい穴子。
二本は白焼き用に取り置いて、残りは皮のヌルを取り、酒
とみりんと醤油で贅沢に煮る。
今日は大水さんに穴子弁当を作る。
穴子やさんに穴子弁当を持ってゆくなんて、へんなことだ
けど、でも、そうしたいと思ってしまったのだから、そう
するしかない。
錦糸卵もいつもより丁寧に焼いて、ふわりとなるように細
く切る。もしかすると大水さんは卵アレルギーかもしれな
いし、穴子やさんだけれど、穴子は嫌いかもしれない。な
にしろ大水さんのことは何もしらないのだ。
新米はすこし硬めに炊く。竹の皮の弁当箱をかたく絞った
さらしで拭いて、炊き上がった米を薄めに広げ、ほろりと
なるまで煮た穴子をご飯がみえないくらいびっしりと並べ
る。錦糸卵でおおって、奈良漬はふた切れ。
お手紙を書いて三つに折り、封筒には入れず弁当の上に置
いた。おおげさにはしたくないから。
どきどきした。だって、穴子やさんの穴子で穴子弁当を作
って持っていくんですから。
下くちびるをかみしめるように大水さんに行くと今日は店
先にまな板を出して穴子をさばいていた。
「あのう」と声をかけて「穴子やさんに穴子弁当なんてお
かしいのはわかっているんですけど」と言うとはあはあと
頷いて「あそこの○○さんの?」とおっしゃった。いえ、
さっきいただいた穴子で作りましたと言うと、えっ、と驚
いた顔になり、よろめいて弁当の入った紙袋を抱きしめ「
それはなにより、です」とおっしゃった。
うれしかった。
今日はすべての穴子を生簀から上げて、さばいてしまうの
だそう。
ひげの人と合流して、住定の大将と女将さんの写真を撮り
にいった(この店で初めて買ったのは、鱈の白子)、青果
部にまわり、金芳の女将さんと会長のショット(ここでは、
君津は医農野菜の大根)。
みなさんいい笑顔だったな。
今日の築地は夜中から開場しているらしく、人人人。
フラッシュが大量にたかれている。
さようなら、築地。
わたしを鍛えてくれた市場。喧嘩の仕方をおしえてくれた
市場。
ほんとうに、ありがとうございました。
蕎麦屋でビール。涙の乾杯。今日は日本酒もいっちゃう。
卵焼きをつつきながら、大水さんは生簀の穴子をすべて上
げて、空になった暗い箱を掃除している頃だろうか、と想
う。
ひさしぶりにたかちゃんと会う。
早く帰るつもりだったのに、結局午前さま。
会えば、話はつきず。
母からメイルがあったのに気がつかなかった。
「銀杏150 五円×3 銀杏の側にぱらぱらと。
ご褒美にいただきましたo(^-^)o」
―――――-
大水さんへの穴子弁当
昼は蕎麦。
三点盛り、卵焼き、あと一品が思い出せない
ビールに十一州(北海道の日本酒)
ひげの人、大もり わたし かけそば
夜
お留守番のひとは穴子弁当
わたしはたかちゃんと、ワインや日本酒や寿司
自分の所で売った穴子が・・・自分の所へ
美味しく穴子弁当として仕上がって来た。
どんなに嬉しかったことでしょう
朝から感激して読みました。
丁度 深夜番組で 築地のマグロやさんのドキュメンタリーを見たところでした。
市場の人だけでは無く、いろんな人にドラマがあったんだなぁ・・・と、今、また思いました
おはようございます。
思いのほか、喜んでくださり、うれしかったです。
大水さんのことを思うと、まだ、目頭があやしいです。
築地場内で6店舗、未だに営業をしていることを知りました。
豊洲で競って、築地に持ってきてるんでしょうけれど、大変だろうなあ、と思います。
社長さんがまたよいお顔をされている方で。
そうですね、色々な物語があったんだと思います。
余震がまだあるようですね。
早く、おさまりますように。
そうですね。ほんとうに、人間くさい市場でした。
今度はどうなるのかなあ。
一週間経って少し落ち着いたら行ってみようと思っています。
母も喜んでいました。
どんないいことがあるのか占って、というので、それはしないほうがいいよ、と言いました。
きっと、よいことが起こりそうな予感がしています。