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日々の皿

袖摺坂をのぼって


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10月13日(土)  曇天  18/17℃


「かわいいねえ」と声をかけると、振り返った。

もう一度餌をついばんでいる背中に声をかけると、犬のよ

うな風体でそろりとこちらの様子を伺う。スズメにもずい

ぶんと個性があって、餌皿に近づくのでさえそれぞれ流儀

がある。

出かけるまでもくもくと栗の皮をむく。

テーブルに新聞紙を敷いて大きなまな板を二人の間に渡し

包丁を使うときはそれぞれの端を使う。その両端に栗の皮

がこんもりと、山になってゆくのはいつかどこかの海の砂

場で死んでいたモグラの道のようだなと思う。

もぐらは方向を間違えたのか、砂を盛り上げながら長い線

を描いてようやく地上にでたのに、強い日差しと水平線

せてはまたうちかえす波が目の前に広がっていて、その

ショックなのかどうか絶望したのかどうか穴から半身でた

ところで両手を上げて死んでいた。

記憶のモグラはサングラスをかけていて怪しいからもし

かすると「両手を上げて」はわたしの記憶の創作かもしれ

かわいそうなモグラだった。あんな酷いことってな

うな。


袖摺坂をのぼって日置路花さんの書に会いにゆく。

一水寮のがたがたいう引き戸をあけて入ると、こじんまり

した空間にちいさな書やお軸がびっしりと並んでいた。

ひとめぼれをした日置さんの書だけれど、わたしにはそ

をすらすら読める知性がないから、わかる文字と文字の間

字の形をよく見て、想像で音を埋めてゆく。

しかし、となればひとめぼれは書全体の雰囲気にあったと

いうことなのだろうなあ。

途中で目録に句が印刷されているのに気がついて、手引き

を見ながら書の前に立って。

一つ一つ書を見るには、まる一日でもいたかった。

そうでもしないと、音や景色や情景やそういうものが体に

入ってこない。

蓄積をつくればもうすこしすらりと入ってくるものだろう

か(ひげの人は崩し方がわからないから読むのに時間がか

かったと言った。崩し方にルールはあるんだろうか。いや

、ルールではないと思う。特に日置さんのは)。

空間の端のちいさな木のベンチに腰掛けている人たちの話

し声がときどき聞こえて、そのなかのおひとりが日置さん

だった。

帰るときにご挨拶をしたのだけれど、細いお体にグレーの

セーターをお召しになって、にっこり笑ってくださった。

どうしてか、ほうじ茶を想った。お疲れになるとほうろく

で茶を炒ってほうじ茶をつくり、ようかんを薄く切り、

の香りのなかでひと休みされる。そうしてまた書に向か

れるのではないかなあ、と。

一水寮をでて細い路地をゆくと、焦げ茶色の古い木造家屋

から茶碗を洗う音がする。見上げるとすりガラスの向こ

に「ハミング」のぼんやりした文字。ひとの動いている

があたたかくて、いちど通りすぎ、また戻り、茶碗の

合う音や流れる水の音を聞く。

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神楽坂はきらびやかになっていた。

つい数年前まではもっとしっとりしていたけれど、人も多

いし観光地みたいだ。

今夜はここ、と決めた食堂がまだ開いてなかったから散歩

をする。

山武の農家さんから蕪、ラデッシュを一袋ずつ、大きな落

花生をふた袋。お好み焼き屋の店先にずらりとならんだ野

菜から、やや古い水の抜けた冬瓜を一つ。


帰ってきて、栗の続きをやった。

途中で根気が続かなくなって、ばたりと倒れて夢の中。

夜中に目が覚めたときには、テーブルの上が真っ黒に見え

るほど栗の殻が盛り上がって。



―――


朝は

リンゴ一個分のトースト



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新聞紙の上で食事をしたかったけれど。

いかにも作業場みたいでいいと思って。

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・胡瓜とゆで鶏の中華風

 おねえさんが送ってくれた胡瓜をたたいてゆで鶏と合わせて。

 オイルはごま油とピーナッツオイルを合わせて。

・たまごチャーハン

 味付けはホタルイカの魚醤。たっぷりした旨味のある味になる。

・絹ごし豆腐の鶏のスープ

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夜は

店の佇まいが古くてかっこいい、○○飯店で

広い店を三角頭巾をされた女性が一人で取り仕切ってらした。

大きな建物だからもともとは家族でされていたのではないかな。

ゆで豚 キムチモヤシ きんぴらごぼう 餃子 焼売定食 

ビール

カウンターでもくもくと皮に餡をつつんで閉じる作業をされてい

て、明日のランチの仕込みだろうか。 

また来たいと思う店だったけれど、味付けが甘すぎて、肉まんの

五十番に飛び込み、黒ごままんを一つ。

ベンチに座って二人で分ける。




by hibinosara | 2018-10-21 07:16 | Comments(2)
Commented by shigeko at 2018-10-22 17:20 x
日置路花さん、お着物じゃなくてグレーのセーターだったのね。
イメージどうり。

今年のコンポートはいつもより少なめだけど、もういいことにして夫と喜多村さんの個展へ。
早かったので「日日是好日」でも観ようかと。
風物詩のようで疲れがほどけていく感じでした。
主人公が「水の音とお湯の音が違います」という場面では耳を澄まして。
りかちゃんが路地で流れる水の音を聞いていたように。

大水さんておじゃました時に穴子を買いに連れて行ってくれたお店ね。
穴子弁当を届けたって、いい話だなぁ。
Commented by hibinosara at 2018-10-23 06:10
しげこさま
うん。凛とされてでもたおやかでね。そうだな、茶花のような方。
うすくらい床の間に椿の蕾が一輪。というようなふう。
お着物もお似合いになりそう。つったけの着物に、元禄袖、お太鼓じゃなくて細帯でするすると結んでなんでもないふうにお召しになって。

コンポートおつかれさまでした♡
「水の音とお湯の音が違います」って、観に行きたいな。
お湯の方が扱いが丁寧になるのかしら。
とぽとぽとやわらかい音になるような、予測を立てておこ♡
そういうことって、ほんとうに涙が出るほど(もうにじんでるけど)、すくわれるな。

ありがとう。大水さんが大好きだったしあの一角も、大好きだったな。
隣は、すっぽん、うなぎ、夏はしじみ、冬は牡蠣を扱って、強くて、黒くて、ぬめぬめしているものが、あの狭い空間にひしめいていてね。
すっぽん屋さんの先代は弱視の方でねちょっと松本清張に似ていた。
アインシュタインみたいに爆発した頭が帳場に見えて、帳面に顔をくっつけるようにしていつも書いてらしたの。息子さんも目があまりよくないの。やさしくって大好きだった。
ほんとうにいろんな人がいた市場だったな。インテリも失業をした人も(編集長だった知人が一時働いていたの)逃亡者も(想像だけど)長老も若い人も、あらゆるひとがいて、それを受け入れている市場っていうのが好きだった(豊洲も変わらずそうなんでしょうけれど)。
デザイナーのMさんはある時期までマグロの解体をして生計を立てていたらしいけれど、それを聞いたとき、あの雇用の広々とした考えは、築地時代に培われたものかもしれないな、と思いました。