芝大門の梅と中華屋
2月20日(水) 晴れ 20/5℃
冬の光に霞。
今日は暑くなるそう。
もうすこしで前歯の治療がおわりそう。
記録の写真を撮るとき先生は「すこし笑ってください」と
言った。一度抜歯して、形を作って、また歯を戻したから
、調整するらしい。
診察台で笑っていると、隣の患者さんが「串カツ弁当だっ
て知らなくて、カツを食べたら思い切り串をかんで歯がお
かしいんですよ」と言った。さらに、笑う。
帰り道、芝公園の暗闇になにかありそうな気配があって細
い道をゆくと、外灯の下で梅が枝をひろげて咲いていた。
ぞっとするような気配だけれど、近づかずにはいられない。
ひげの人が大門で待っているのはわかっていたけれど、梅
園の花を撮ってまわる。
増上寺の暗い道を通って、寺町をゆき大門の地下鉄前にか
けってくと、ガードレールに腰をおろして往来をながめて
いるひげの人。ごめんなさいと謝ると、今日は外で食べて
帰ろうよ、ほらあそこ、と言う。
角の大衆居酒屋がいつも気になる。道に面した焼場から串
焼きが煙をもんもんとのぼらせて、白衣の人がひっきりな
しに肉をひっくりかえして、おいしいのかまずいのかわか
らないけれどそんなことはどうでもよくて、あの開放感に
惹かれる。そう思う人は多いのかいつでも満席で、外にも
ビールケースを裏返したテーブルが並んで立ち飲んでいる
。サラリーマンや観光客がビールと焼き鳥を手にしている
のを横目で見てはいつでも羨ましいと思う。あの活気はた
ぶんおいしさの証明のような気もしている。わたしたちは
気になっていた街中華へ。ショーウィンドウに味気のない
餃子や中華丼やラーメンのサンプルが蛍光灯の青白い光を
受けて並んでいるのが、すごくいい。
―――20日のごはん
昼は
・ターツァイの焼きそば
おじゃこをたっぷり入れて
夜の街中華
先客はテーブル席に男が一人。ラーメンをすすっている。
中華風冷や奴、餃子を一枚、ひげの人はタンメン、わたし
はビールと五目焼きそば。
会社帰りらしい井森似のトレンチコートの女が入ってきて
隣のテーブルに座り間髪なく「チャーハンを下さい」と言
った。決断力が素敵。ひげの人と目を合わせてにんまりす
る。ずんぐりした男が入ってきて「水はいらない。ビール
ちょうだい」と注文した席に二人が追いかけてきた。三人
ともビール、あっという間につまみでテーブルはうまる。
わたしの焼きそばは悲しい味だったけれど、半切りのゆで
卵、紅のふち取りのかまぼこ、伊達巻、海老、チャーシュ
ーがのっていて、もともとはやさしさから発生したと思わ
れる贅沢な五目の景色。壁際に座った自由業らしき男ひと
りは、ビールと餃子。そのあとハイボールと回鍋肉を追加
。ジリリリーと黒電話が鳴り、太った男が厨房から出て来
て注文を受けている。しばらくすると岡持ちを手にした若
い男が出前に行った。たぶんまた来る。五目焼きそばは二
度と頼まないけれど。