しみじみ
4月5日(金) 雨のちくもりのち雨 11/1℃
よろよろと起きて居間にゆくと、テーブルに洗いかごが
二つのっていた。
夕べみんなが帰ってから、とりあえず冷蔵庫に入れるも
のだけ入れて「おかーさん、明日にしようね、おやすみ
なさい」ばたり、と倒れた。
起きてきた母は「冷蔵庫がね、かぶさってきたのよ」と
言った。はんぶん眠りながら洗っていることに気がつか
ず、ふらーっとしたとき、冷蔵庫が背中を覆ってくる夢
を一瞬みたのだそう。
それにしても、すごい体力。母だってその前の夜はほと
んど寝ずに、わたしと同じくらい働いていたわけだから。
気が強いのだな。それはいいこと。ちょっと安心する。
洗ったグラスや皿が油でぎとぎとで(仕方がない。だっ
て眠って洗っていたんだもの)強い洗剤を買いに駅の前
の量産店まで出かける。
きのう大量消費されたトイレットペーパーも求めると、
大きな袋に入れて何が入っているのか見えなくしてくれ
て、街中の店はこうなんだなあと感心した(でも、そう
いえば、東京もこのところむき出しのトイレットペーパ
ーを持ち歩く姿ってみない)。
きのうの誕生会のことを思い出すうちに、こうちゃんが、
「おばちゃんは、かあさんに似てるのさ」と札幌駅の喫茶
店でそう言った顔が思い浮かんだ。
その時はそうかなあ、と思っていたけれどこの間、パーキ
ンソンになって歩きにくくなった「かあさん」の真似をし
た母は、声もその話し方もせつこおばさんそのもので、お
どろいた。それから、おばさんと母がときどき重なって見
えるようになった。
曽祖母のイワオさんはおばさんの母親だから、イワオさん
は、せつこおばさんや母みたいな話し方をしていたのかも
しれない。
古い写真で見ていた先祖の骨格や肉体に音声がつくと突然
リアリティを帯びて、すこしこわい。
今日は、思うことがたくさんありすぎる。
すぐには帰りたくなくて、駅前広場の牧歌の像を見上げた
り、説明を読んだりした。公共性のある彫像ってどこでも
そうだけれど、鳩の糞でだらだと汚されてもじっとこらえ
て遠くを見つめて、その瞳は諦めた寂しさを持っいて、気
の毒だなあと思う。
大丸デーパートの地下食料品売り場で、母の好きそうなド
イツパンのサンドイッチとライ麦の食パンを買う。
わたしはちずちゃんと二人でランチ。
母はいかないと言った。
早く帰らなければ、と思いつつ、遠回りをする。古い屋根
や古い建物がみたくて、北大の正門からはいって斜めに抜
ける。
夜、冷たい雪。
窓の夜景がさびしくて、きゅぅっとする。
遅く、片付けがだいたい終わり、残り物でごはん。
酢豚、春キャベツときゅうりのサラダ、アメーラ、大根の
煮たのお赤飯なんかをテーブルに並べる。
おにいちゃんが持ってきてくれた、口をあけたスパークリ
ングワインのコルクをとると「ボンッ」といい音がして、
母は「うわっ」と驚いた。
あらためまして、おめでとうの乾杯。
「シマエビおいしかったね」と母「たべられなかった」と
私。明日、時間があればもう一度市場へゆきたい。
すこしずつ残っているワインも飲んで、母はたかちゃんが
送ってくれた日本酒を「おかーさんこれのんでない。ちょ
ーだい」と言った。
二人とも疲れていて、カーテンも引かずに夜を過ごした。
そして反省会をした。
「おかーさんが生きているうちは、家でしましょう」と母
、はりきる。
―――――5日のごはん
ランチは
はるのそらで。
ちずちゃん
海鮮焼きそば
わたし
前菜
担々麺のランチセット
豚肉のレンコン炒め
ごはん
杏仁豆腐
海鮮焼きそばがおいしそうで、後悔する。
ふたりともビールを一杯ずつ。
母にお祝いをくださる。
「パパにもこれ」といって
ひげの人にもお土産をくださる。
わたしは母から預かったきのうの引き出物
をお渡しする。
母のことを、いろいろ聞く。
帰りがけ、
ちずちゃんが「はっ。ここ、ただでコーヒーごちそう
になれるところよ」と入っていたお菓子屋は、旧文書
館をリノベーションした建造物。煉瓦造りの冷たさが
懐かしい。「あー、もうコーヒーはいただけないみた
いだわ」と残念がっていたけれど「あら、試食いただ
いていくかい」と言ってあれこれ、口に入れる。
二階は図書館風のカフェになっているようだから、今
度行ってみる。大通り美術館もゆっくりみてみたいし
、今度帰る時は、一泊はホテルで過ごして、行きたい
店で食事をして、翌日何食わぬ顔で、今日帰ってきま
した!ということにしてみたいなあ、ふうむ。