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日々の皿

塩の塩梅







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2月13日(木)  雨のち晴れ  18/9℃


どうしても大福が買いたかったので、歯医者の予約は午後一番に

した。

泉岳寺駅で降り、高輪の坂を上って突き当りの横断歩道を渡り、

右に曲がってさに坂を上り、一本目を左。またしばらく坂を上

ると風に揺れる赤い暖簾が見えて、お客が二人入って行った。

売り切れているかなあ。

順番を待つつもりで暖簾の外に立つと「決まってましたらどうぞ

」とうすくらい向こうから声をかけられて、気持ちの用意が出来

ないまま道に向けられたガラスの陳列棚に並んだ赤飯一合半や餅

が目に入る。

反射神経は「大福二つ、草餅二つ」と暖簾の間から言った。

店に入ると「ご自宅用ですか?」ときかれ、そうだとこたえると

、透明なプラスチックのパックに並べてくれる。

店の人は頭に白い三角頭巾をして同じ色のうわっぱりを着ている。

一人は若い女でもう一人は中年の女。テレビは何かを放映してい

て、その横には折りが積み上げられていた。飾り気のない仕事場

で、店の人もてきぱきと、けれど穏やかに客をこなしている。

「おばちゃーん、大福餅いっこちょーだい」

汗ばんだ手に硬貨を握りしめてその子には高すぎる包装台から腕

を伸ばし餅代を渡すことが想像できる、開かれた店だ。

でも、高輪にはそんな子はいないかな。もしかすると今はもうど

こにもそんな景色は残ってないのかもしれないけれど。

この間おまわりさんに教えてもらった坂を下り、旧細川邸のスダ

ジイに挨拶をしながら、図書館に本を返しに行った。すぐにター

ンをして坂を上ると、授業が終わったのか、女子高生たちが下っ

くる。

ローファーにネイビー色のソックス。スカートはチェックのプリ

ーツで丈は短め。ブレザーもネイビーでどのこも大振りのマフラ

ーをたっぷりと巻いている。

太陽がやや傾き始めた時間で、背の高い木々の梢からちらちらと

光を落とし、フェンスの向こうに生える草々を風がさやさやとゆ

らしている。

いい天気。昼下がりと女子高生はよく似合うな。

彼女たちはたいてい二人か三人で下校して、打ち明けるような表

情で話しているのが多いけれど、はつらつとして今にも走り出さ

んばかりの元気のよさそうなグループもいる。

マフラーをしていない女子高生の襟元からは白いベストとストラ

イプのネクタイがのぞいていて、色は選べるのかシャンパンゴー

ルドかネイビーだ。

坂を上りきると右手に学園が見えて女子高生が坂を下りてくる。

大福買う子いるかな。食べたくても恥ずかしくて買えない年頃だ

ろうな。

泉岳寺の山門に出る路地をゆくと、すみませんねー、と後ろから

おおらな声が聞こえておまわりさんの自転車が追い越して行っ

た。


帰りに芝の山の前を通りかかると、むこうの梅園が白っぽい。

目をこらすと花が咲いていた。園に入り花に近づくと六分咲きと

いうところか。東京タワーも霞んだ空色にぼんやり立っている。

人はほとんどおらずしんとしていた。去年梅のさかりに来たとき

はたいそう気配がざわめいていたけれど、そうしたらあれは何だ

ったんだろう。長束という名の梅の下ですーはーしてさわやかな

香りをかいだ。

咲き始めたのは梅ばかりではなく、ミモザもお日様に照らされて

いた。




――――――――――13日のごはん


ごはん鍋をおろす。

長い付き合いになるから最初がかんじん。

火加減に気をつけていても、チン、チン、と硬い音が立って、

ヒビが入るのがわかる。

底厚だからか、粥がたいそう旨く炊けた。


白粥

梅干し


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中華ちまき

ほうれん草のおひたし

スープ

干し椎茸 キクラゲ ネギ 人参 油揚げ

何がよかったのか、ずいぶん旨かった。

出汁はカツオの二番出汁。沖縄の金美よりややオレンジ

がかった人参の風味が際立っていた。

人参は色で味が選べるのがいい。



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夜は

黒カレイの中華風あんかけ

ほうれん草のおひたし

玄米ご飯

豆腐とネギのスープ

お茶を飲みながら食後の大福を「深夜食堂」を見ながら食べて

いると、佐藤浩市扮する香典泥棒が折り詰めを出して「泉岳寺

に寄って買ってきたんです。ここの豆大福は塩気の塩梅がちょ

うどいいって、持っていくと先生いつも喜んでらして。これを

御霊前に供えてもらえませんか。」と言ったものだから、

「ぶっ」と吹いて、食べている途中の大福を思わず見た。

確かに塩の塩梅はいい。豆もこつこつしてかみごたえがある。


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by hibinosara | 2020-02-18 08:03 | Comments(0)