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日々の皿

三社






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1月31日(日)   晴れ    12/-0℃


ぁ~ ふぁ~ 

あくびとまらず。

玉ねぎを炒めている匂いがする。

きのうはもっとすごかった。

カバみたいな、あ~ん、と大きいのが何度だってでた。

目には見えない玉ねぎの、硫化アリルとやらが包丁を入れるたび

にぷゅうと飛び散って、部屋に広がって、眠くさせるらしい。

札幌でおかーさんとオニオングラタンスープを食べなさいと、飴

色の玉ねぎ炒めを作ってくれている。

しかし、これから出かけるというのにこんなにぐだぐだに眠くて

大丈夫なんだろうか。

うつむいて玉ねぎを炒めながらヒゲの人は、夕べ見た六人のゲス

トと三島由紀夫のテレビ番組のことをぽつぽつ話した。

わたしは台所のカウンターのこっちでそれを聞いて、体を改造し

た後に男たちと御神輿を担いでいる顔が子どもみたいに綺麗だっ

たねえと言うと、ヒゲの人はあんな人でもコンプレックスがある

んだなと言った。

コンプレックスっていうのは振り幅が広い。そうして三島由紀夫

は三島由紀夫になっていったのだろうけれど、最後はあれでほん

とうによかったのかなあ。


出るのが遅くなってしまったから、おなかが空かないようにオレ

ンジのジャムとチーズをたっぷりのせたトーストを食べた。

赤坂御用地の石垣沿いの歩道に落ちている裸木の影を、私たちの

長い影が渡ってゆく。

それにしても、豊川さんに来るときはいつもよく晴れているな。


むかしは風水師のKちゃんをお頭に仲間たちときていた。

Kちゃんが熱く話してくれることは私たちには外国語のように聞

こえ、頷くばかりだったけれど、よくわからないまま山に登った

り、銭湯に入ったり、揚げ物を食べたり、大根を抱いてお参りに

行ったり、外国に行って埋め物をしたり、おもしろいことだった。

パワースポットブームで神社仏閣が混雑するようになり、Kちゃん

は礼儀知らずのお参りと怒り、神さまだって気枯れしてしまうと案

じ、そうしていくつかの事情が重なり合って、みんなで来ることは

いつの間にかなくなった。

時々、豊川さんの桜の下でみんなで撮った写真を思い出す。

黒い大きなサングラスをかけて足首まであるウールの重い黒いコー

トをはおったKちゃんは、迫力があって格好よかった。


お参りしてお札をお返しする。そして新しいのをいただいた。

あれ。

去年までは、初午は旧暦で行っていたはずだけれど、今年は新暦

なのだなあ。来年からもそうなんだろうか。なんだかさびしい。

長いなだらかな坂を下り、赤坂の飲み屋街を通って日枝神社のお

猿の神さまにご挨拶にゆく。

荒神さまのお札をお返しして、けれどこちらもすごい人。


お昼を予定していた赤坂の、コリアンタウンをはじめて歩く。

古い雑居ビルが独特な様相。

人間くさくていいなあ。

好きだ。

お店の前に立ってみたけれど、ジャムとチーズとパンが腹の底に

もったりとして、写真で見たテーブルいっぱいに広がる小皿料理

とソルロンタンが入るとも思えない。

ヒゲの人は後ろ三メートルあたりにいるから彼もお腹が空いてい

ないんだろう。

名物おばさんと、金ピカの観音様にも会ってみたかったけれど、

いつか二日酔いの昼に来てみたいなあ。それには計画的に二日酔

いにならないとなあ。計画性のある二日酔いかあ。



テクテクは続く。赤坂福榎商店街を抜け、坂を上ったり下ったり、

細い階段を上がったりしながら丁目を越え、デカデカとそびえる

アメリカ大使館の横をすり抜けて、愛宕さん。

わたしは日枝神社の荒神さまのお札が好きだけれど、ヒゲの人は

愛宕さんのお札の方が好きなのだそう。

じゃあ今年は愛宕さんで。来年は日枝さん。

一段が高い急勾配の「出世の階段」を、上る元気はもうどこにも

残っておらず、ゆるやかな女坂を上り、山の頂上に着くと、脱力

するほど混雑していた。

なんでー。

お参りもせず、池の鯉をじっと見る。

ヒゲの人は猫背(この神社の歴代の白猫)を探しに行った。






――――――――31日のごはん


朝の三点セットとレーズンパン


おなかが空かないためのチーズとジャムのトースト


新橋に着く頃、お腹が空いてあばれる。

とんかつ河へ。

気になっていたお店。

ご主人と女将さんのお二人でされている。

テーブルの一枚板が分厚い。定規をもってなかったけれど15㎝

くらいはありそう。

厨房の壁も換気扇のフードもピカピカしている。

トンカツを揚げる油を囲んでいる低い塀のようなものは銅製で、こ

れもまた気持ちよいくらい曇りがない。

注文が入ると女将さんは、小鉢の用意をする。

女将さんは足を引きずっている

私たちのテーブルの壁には古い映画のポスター。

大人30円。小人10円。

反対側の壁には古い時計がいくつかかかって、阿波踊りのポスタ

ーが額に飾られている。

入ってくるのは、男のひとり客ばかり。


ヒゲの人は

カキフライ定食

わたしは

串カツ定食


ヒゲの人は、女将さんに声をかけて映画のポスターについて聞い

ている。

わたしは揚げ手のご主人の顔をちらりちらり盗み見する。

ずーっとトンカツを揚げてきた人の頑固な表情がいいなあ。

気難しいかもしれない。

運ばれてきた皿はいかにもうまそうな大きなカキフライ。

串を抜かれ、食べやすいように横に包丁を入れられた、串カツ。

豚汁がすばらしくおいしかった。

ヒゲの人のカキフライのお漬物には、わさび漬けが添えられてい

る。細やか。いい店だなあ。

ご主人の様子をちいさな声で伝えるのはわたしの役割。

「気難しいのか」と呟いて、お会計をしにゆくついでに話しかけ

ている。

なんと。笑うと、小太りのご主人の赤いお顔に、花が咲いた。

何度か癌を患ってお腹を開けていること。

けれどもう何年かはお店をやりたいこと。

緊急事態宣言を受けて8時までの営業にすれば、毎日6万円もら

えてその方がいいけれど、お客は常連さんばかりだから頑張って

いること。お客さんはそれを喜んでいるらしいこと。

短い時間にいっぱい話してくださった。

女将さんはレジでニコニコとして待っている。

ご主人はもうすぐ80歳になられるのだそう。


by hibinosara | 2021-02-28 14:35 | Comments(4)
Commented by 施基 at 2021-03-01 09:32
計画性のある二日酔いかあ、なんだか素敵に感じてしまいます(笑)。
Commented by hibinosara at 2021-03-01 10:21
> 施基さん

「お。ちょうどよい、気持ちわるさ。ズキズキ」なんて目覚めてみたいものです(笑)
うまくいったら二日酔いをたいせつに抱えて、コリアンタウンへ。
Commented by まみりん at 2021-03-01 12:09
お二人のお詣り風景、すてきだなあと読んでいたら、トーストでお腹をいっぱいにしちゃったのねアララ、と読み進み、
しかし新橋でお腹がすいてあばれる、のところまで来たら
あ〜やっぱりリカちゃんだあ!

ところで私事ですが今日は予定していなかった二日酔いに呻吟しております。
Commented by hibinosara at 2021-03-01 18:25
> まみりんちゃま

んー。
すてきかあ。ふうむ。

おなかすくとね、こわいんだって。
あばれていてもこわいし
だまっていてももれでてくるものがこわいんだって😭

お。
今度は二日酔いを予定いたしませう。