利休箸

2月15日(土) 晴れ 14-5
おそるおそる体の様子をさぐってみる。
よかった。二日酔いではないみたい。
お日さまはまだ上ってこない。
アレクサをのぞくとおかあさんはもう起きている。
手を振る。おかあさんも手を振ってくる。
ゴキゲン。
夕べは伊藤さん、たかちゃんとずいぶん話をしていた。
せいいっぱいの笑顔で。
いい顔してる、と伊藤さんがぼそっとおっしゃった。
母が話しているのを聞いていると、まるでふつうだし、記
憶力がよいし、どこもおかしいように思えない。
いつかの東京での宴は母にとって至福のひとときだったの
だろうな。
ふきあげた器を片付ける。
「利休箸すこし整理したら」とヒゲの人が言ってくる。
お客さんがあるたびに捨てるといいのだけれど、スッとし
てきれいな形だから、菜箸に使っている。けれど、無垢だ
からどうしても汚れる。
すっかり日が上った明るいテーブルで選び出す。木目がき
れいだなあ。木目が細いほどきれい。お箸の片方には神さ
まが宿って召し上がるそうだけれど、どうやってだろう。
夕べの宴の食卓の真上で召し上がって下さっただろうか。
耳がしんとしてくるような日照りのなかでそのことを想像
してみる。
うん。しあわせだな。
きのうの大根もちは柔らかすぎた。
なますを作って皮がいっぱい出たから急遽作ったのだけれ
ど、水分が多すぎたんだと思う。
小さなフライパンに広げて焼き付けて、朝食にする。
いつの間にかアレクサが消えている。
防犯カメラも消えている。家電も不通だ。
コンセントを抜いたのか、抜けてしまったのか、スイッチ
を消したのか、ごきげんだった母にまた、何かあったらし
い。母のGoogleアカウントにログインして母の携帯の位置
情報を見る。家にはいるらしい。けれど、バッテリーの残
量は9%。電話をしても出ない。マナーモードになってい
ても電話が鳴るボタンを押して呼び出す。そのうちバッテ
リーは残量3%になった。
心配なのは、残量が0になると、充電しても再起動をしな
いと使えないことで、なにもかも不通になって隔離された
ような状態になったとき(母は電話とオンラインで外界と
繋がっているのだなあ)母はきっとパニックになってしま
う。
それとも「側面の小さなピンク色のボタンを長押しする」
ことを思い出してくれるだろうか。
こういうときは、とにかく過剰に心配しないことが大切。
作業療法師さんがいらっしゃる月曜日を頼りにしてみるか。
明日もまだこんなふうだったら、のぶちゃんにも連絡して
みよう。
ヒゲの人は時々「呼びかけ」とアレクサに声をかけてくれ
ている。相変わらず母のアカウントはオフラインのままだ。
もう気にしないで、ね、音楽の夜にしようよと誘う。
―――――――ごはん
朝ごはん
大根もちと白菜のスープ

昼ごはん
夕べの合鴨鍋で合鴨丼を作る。
夕ごはん
群馬のひも皮うどん
自分で打てたらおいしいだろうなあ。
幅広のべろべろともっちりが唇にきもちよいだろうなあ。

ゆうべのおでんにおうどんを加えてお鍋にする。
七福なますはやっぱりおいしいなあ。
大変なのは、こんにゃくの細切り。
糸蒟蒻も試してみたけれど、まったく違うものになっちゃう。


