ひとり
寝静まるとそっと抜け出した。
コートの下の素足に風が冷たく走り抜けて震え上がる。
頭を空にして歩きながら友に電話をした。
北大の南門の向こうに広がる闇や、辻に浮かぶコンビニの灯り
が夜の底のようで、力が抜けていった。
のぶちゃんには明け方近くに夜食が必要で、何か簡単に口にす
るものを買いにコンビニに入ると、軽い嘔吐が起った。
油のにおい、簡便さ、とても静かで。
東京の自分の台所に立って、包丁を握り、気の入ったものを作
って食べたいと思った。
そのうちそんな望みも消えて疲労が重なるとカップ麺がちょう
どよかった。愛想のないあの食べ物には、隙がない。
東京に戻った翌日の夜に肉を焼いた。
生きながらえている母は学会で発表されるらしい。
明日は写真を選んで病院に送る。
記憶にある味と舌にのる味にくいちがいが現れて、刺してくると
口を苦くしてもいたけれど、グラタン、オムライス、うなぎのお
こわ、穴子の照り焼き、たいてい、これらは母を救った。


