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日々の皿

やっぱり、覚えていることは留めておこう。

29日の朝、目覚めた母に安堵して、けれど母は変わらず

私を憎んだ目で睨んであなたは鬼ですと言った、その続き。


ペンとノートを持ってくるように言いつけた母は、右側の

鎖骨と肋骨が折れているものだから(大動脈が乖離した時

にあまりの痛さに失神してどっと倒れた衝撃で折れたと思

われる)字にならず、私に書かせた。


これは遺言なんだ、と心した。

けれど書くうちにその深刻さが薄まっていったのは、職員

を呼んでこの部屋の掃除をさせるように、美術品の整理も

するように、と言ったそのニュアンスが去ってゆく人のも

のではなく、次に、みんなに連絡をして自分の誕生会を開

くように、お弁当はなだ万を用意するようにと言った母は

いつもの通りで、おかあさんってこうなっても変わらない

んだなあと、こうちゃんと交代して、こうちゃんの好きな、

「かま栄」のかまぼこを買いに駅地下をとぼとぼ歩きなが

ら、しげこさんの声を聞きたいような気になったけれど、

卓也さんに電話をした。「鬼ってね、いつものことだけれ

ど、でもこうなったらお母さんは何か変わるのかと思った

」と言うと「期待しないことだな」と言った。地下街なん

だから風なんか吹いてないはずなのに、ぴゅ〜と冷たい風

に吹かれているみたいだった。


その日から、こうちゃんたちが泊まりにきてくれるように

なった。いつ何があってもいいように。そして、わたしが

買い物や睡眠や日々の必要なことができるように。


ねこ姫からお誕生日のプレゼントが届く。

そしてまたお誕生日を行う。

何度でも行いたかったから。

夜には子どもたちも来てくれた。

しばらく会わないうちにRくんの唇から出てきた声がすご

く低くてびっくりした。色白のRくんが話すたびに反応す

るものだから鬱陶しかったと思うが、よく響く声に変わっ

ていた。

Rくんは、母がこうちゃんを犯人扱いして、玄関払いをした

ことも、警察に訴えようとしていたことも、兄弟に電話を

して娘さんにまで電話をして「あの人はひどい人間なんで

す」というようなことを言ってまわったこともたぶん知っ

ている。少なくとも母のこうちゃんへの扱いを知っている。

それなのになんて寛大なんだろう。母に手を握らせてくれ

て。もうすっかり大人の男の人だ。


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東京は桜が咲き始める。

卓也さんは東京のアレクサを桜の木の方に向けて見えるよ

うにしてくれていた。鳥の声、子どもたちの歓声、それか

らブランコをこぐ音が聞こえて来た。とてもよかった。



ICUでの母

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by hibinosara | 2025-10-27 10:34 | Comments(0)