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日々の皿

それでもやっぱりよかったな 

つくづく、私が思っていたより、母は大変な人だったんだなあと思う。

母を思い浮かべるだけで、深く長いため息が唸り声とともに、口から

出てゆく。いやはや。

今の母は、昔のほがらかな微笑みを取り戻しつつある。

深いところに澱のようにたまった、恨みや、憎しみや、よくないどろ

どろを抱えたまま、あの時死んでしまわなくてよかった。


夫のことを憎い、とは叫べなくて、卓也さんに夫を投影し憎み(反面、

私の夫と幸せそうな笑みを浮かべ、けれど娘の手前口ごもり)、自分を

娘に投影して「純粋にあなたのことを信じていたのにあまりにもあの子

が可哀想です」と卓也さんに叫ぶことでしか、嫉妬心を取り出せなくて、

それでも、深く傷ついた自分の心に、母は近づけたように思う。




小栗康平監督の「死の棘」をみた時(原作は読んでない)、わたした

ちの関係ととてもよく似ていると思った。

あちらは夫婦で、こちらは母娘ではあるけれど。

浮気で苦しめられた夫を憎んで仕返しをするところも、けれど夫を憎

む自分も許せないところも、すごく似ていた。

死の棘の夫は妻に責め立てられて、あんまり苦しくて、線路まで走っ

て電車にはねられようとした。私は無感情になることで母のすべてを

受け入れようと努力したけれど結局できなくて、とめどなく爆発した。

死のうとは思わなかったけれど、母が仕返しをしたい人たちは皆死ん

でいて、憎しみや後悔がまとめて私に向かってくるものだから、狂う

かとは思ったな。



母は分裂していて、自分がおかしくなっている時のことを、ほとんど

覚えていなかった。さいしょはそんな都合のいいことあるだろうかと

疑ったけれど、まるで六条御息所のようだと思うようになった。

母は生涯をかけて築いてきた、自身の理想の姿を自ら壊し、見られた

くない自分を晒してしまって、まるで神話のようだと思った。

六条御息所は祈祷によって、母の場合は周りの人たちの愛情によって、

もしくは祈りによって、すこしは落ち着いたように思う。



母には運があるなあ。
そして私にも運がある。
母のおかげで大変に成人したもの。



by hibinosara | 2025-12-10 06:52 | Comments(0)